人口集約によるコスト節減効果はどのくらいか
「ケア・コンパクトシティ」(図表1のイメージ参照)の推進により、介護関係のコストをどの程度効率化する可能性があるだろうか。以下では粗々の試算を紹介する。
図表1
(出所)(株)アバンアソシエイツ作成
まず、介護関係のコストとして介護給付費が存在する。人口集約を進めた場合、1人当たり介護給付費がどのような影響を受けるかを把握するため、市町村における65歳以上人口密度と、認定者1人当たり介護給付費の関係を見てみよう。「平成24年度 介護給付費実態調査」及び「平成22年 国勢調査(都道府県・市区町村別統計表)」のデータから、縦軸に「認定者1人当たり介護給付費の対数」を、横軸に「65歳以上人口密度の対数」を取り、それらの関係をプロットしたものが図表2である。
回帰直線は水平であり、65歳以上人口密度と1人当たり介護給付費の相関は極めて低いことが読み取れる。この事実は、「65歳以上人口密度が高まっても、1人当たり介護給付費が膨張するとは限らない」という可能性を示唆する 。
次に、介護関係のコストとして、介護給付費以外のコストを考えてみよう。これらのコストには、老人ホームなど老人福祉施設にかかる経費などが存在する。老人ホームなど老人福祉施設にかかる経費などは、市町村の老人福祉費に含まれる。
そして、老人福祉費は①老人福祉関係職員の人件費、②老人福祉法に基づいて行う老人福祉行政に要する経費、③老人ホーム等老人福祉施設に係る経費、④介護保険事業会計および後期高齢者医療事業会計への繰出金などから構成される。このうち、「ケア・コンパクトシティ」に直接関係するコストは③と④と考えられるが、現状のデータからは識別することが困難であるため、取りあえず、老人福祉費で代用する。
1 これは包括ケアがコスト縮減的であるとは限らない可能性も示唆する。実際、Aggie T.G. Paulus, et al. (2008)は、1999年から2003年の
オランダの約23000のリストを精緻に分析し、「包括ケアがコスト縮減的である」という仮説が成立しない可能性を明らかにしている。
図表2:65歳以上人口密度と1人当たり介護給付費との関係
このような前提の下、市町村における65歳以上人口密度と65歳以上1人当たり老人福祉費の関係を見てみよう。「平成24年度 老人福祉費」及び「平成22年 国勢調査(都道府県・市区町村別統計表)」のデータから、縦軸に「65歳以上1人当たり老人福祉費の対数」、横軸に「65歳以上人口密度の対数」をとり、その関係をプロットしたものが図表3である。
回帰曲線はほぼ全域で右下がりである。よって、65歳以上人口密度と65歳以上1人当たり老人福祉費は一定の相関をもつことが読み取れる。この事実は、「(ごく一部の高人口密度地域を除けば、)65歳以上人口密度が高いほど、1人当たり老人福祉費は低下傾向」となる可能性を示唆する。
以上の2つの傾向が妥当な場合、「ケア・コンパクトシティ」の推進は、1人当たり介護給付費を膨張させることなく、それ以外のコストを低下させる可能性を持つことが分かる。では、「ケア・コンパクトシティ」の推進は、財政をどのくらい効率化する可能性があるだろうか。
図表3において、65歳以上人口密度の対数が6未満で、市町村の1人当たり老人福祉費(図表中、点線で囲んだ範囲)が、人口集約化を進めることで、65歳以上人口密度の対数が6の値(回帰曲線上の矢印のプロット点)まで低下させることができた場合を考えてみよう。人口密度の対数が6未満とは、65歳以上人口密度が403人/km2未満の市町村に等しい。具体的には、埼玉県鴻巣市(370人/km2)や熊本市(396人/km2)がこれに近い。65歳以上人口密度のイメージをつかんでもらうために他の都市の65歳以上人口密度をいくつか列挙すると、東京都の港区(1731)、 国立市(1776)、多摩市(1466)、 千葉市(756)、北海道旭川市(124)、鳥取市(60)という具合である。
このような前提の下、人口を集約化する政策を実行し、図表8の点線範囲の1人当たり老人福祉費を、65歳以上人口密度が403.4人/km2の値(矢印のプロット点)まで低下させることができた場合、粗々の試算では、総額約2490億円の老人福祉費が節減可能であることが分かる。
図表3:65歳以上人口密度と1人当たり老人福祉費の関係